サクッと紹介! 運動麻痺回復のステージ理論:④ Training-Induced Synaptic Strengthening(3rd stage recovery)
こんばんは。
今日も脳卒中運動麻痺回復のステージ理論についてご説明をしていきます。
前回、2nd Stage Recoveryでは皮質内抑制が運動麻痺の回復に関わっていることを説明しました。(過去の記事は一番下に貼り付けてありますので気軽に読んでください!)
今回は6ヶ月以降の回復である3rd stage Recovery(図1)についてご説明したいと思います。
図1 運動麻痺回復のステージ理論(原寛美, 2013より一部改変)
3rd stage Recoveryではシナプス伝達が効率化されることによって回復が促進されるという考えになります。
では、この研究グループの著者らはなぜ、シナプス伝達が効率化されるという結論に行ったったのでしょうか?
これは前回説明した皮質内抑制のパラメータを確認します(図2)。
図2 Intracortical Excitabilityの結果
図2をご覧いただくと、3ヶ月の時点ではパフォーマンステストと皮質内抑制を示すパラメータ(SICI,LICI,ICF)は関連があることがわかります。しかし、6ヶ月になると皮質内抑制を示すパラメータとパフォーマンステストに関係がないことわかります。
この結果から、3ヶ月の時点では損傷した周囲の組織が脱抑制し、頑張って皮質を再構築して活動させようとしている段階なのですが、その接続はまだ不安定な状態です。これに対して、6ヶ月の時点では神経の接続が安定してきた段階(シナプス伝達が効率化された)で、脱抑制に依存せずにパフォーマンスを発揮できるようになる。すなわち、”6ヶ月の時点の皮質内抑制とパフォーマンステストに関連がなくなる”と考えているようです。
ということで今日はここまで!
また、今後はAPAの記事に戻りたいと思いますのでよろしくおねがいします!
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過去の記事
サクッと紹介! 運動麻痺回復のステージ理論:③ Intracortical Excitability(2nd stage recovery)
こんばんは。
前回から運動麻痺回復のステージ理論について解説してます。
サクッと読める記事を心掛けていますが、前回は少し熱が入りすぎてしまいましたので、改めてシンプルを心掛けていく所存でございます。
ということで今日は運動麻痺回復のステージ理論の Intracortical Excitability(2nd stage recovery) についてです(図1)。
図1 運動麻痺回復のステージ理論(原寛美, 2013より一部改変)
まずは、Intracortical Excitabilityとは何かを知る必要があります。
Intracortical Excitabilityとは…
- Short-Interval Intracortical Inhibition(SICI)
- Intracortical Facilitation(ICF)
- Long-Interval Intracortical Inhibition(LICI)
のことです!
(と言われて理解できる方は経頭蓋磁気刺激の理解がある程度ある方かと思います。)
SICIについては実は以前、ブログで紹介していますので詳細は割愛しますが(一番下に過去の記事を貼り付けておきます)、2連発刺激法という方法で大脳皮質の抑制を調べる指標になります。ICFは皮質内の興奮性を調べる方法と思っていただければと思います。LICIはSICIと同じ皮質の抑制を調べる指標ですが、SICIとは似て非なるものです。ここでは、抑制を調べるものかと思っていただければよいかと思います。(そのうちに、これらの指標がどのようにして得ることができるのかについて記事にしようと思います)
そしてこれらの指標を急性期・3ヶ月後・6ヶ月後で調べ、パフォーマンステストとの相関を見た結果が図2と図3になります。
図2 Intracortical Excitabilityの結果
ここの結果で注目すべきは抑制系(SICI/LICI)では損傷半球との差があり、促通系(ICF)では有意差を認めないという結果になっており、損傷半球の脱抑制(抑制が弱い)があることがわかります。
図3 Intracortical Excitabilityとパフォーマンステストとの相関
そしてパフォーマンステストとの相関では急性期において相関はなく(LICIを除く)、3ヶ月の時点で相関する傾向があることがわかるかと思います。
この結果と先行研究の報告から著者は「3ヶ月時点では脱抑制が生じており、他の損傷していない近接・遠隔領域との接続を行いう時期」と考察しています(新たなネットワークの再構築と呼ばたりもする)。
このように、TMSを使って発症から3ヶ月時点の皮質の状態を観察し、考えられたものが2nd Recovery Stageです。
ということで今日はここまで。
次回は、いよいよ最後の3rd stage について解説していきます。
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過去の関連記事
サクッと紹介! 運動麻痺回復のステージ理論:② Corticospinal Excitability(1st stage recovery)
こんばんは。
前回から運動麻痺回復のステージ理論を紹介しております。
今回はCorticospinal Excitability(1st stage recovery) についてです。
ちなみに運動麻痺回復のステージ理論はSwayne OBら(2008)によって提唱された運動麻痺の回復において時期によって改善のメカニズムがことなりますよーという理論になります。
今回は急性期の段階で起こるCorticospinal Excitability について解説したいと思います(下図)。
図1 運動麻痺回復のステージ理論(原寛美, 2013より一部改変)
Question:Corticospinal Excitabilityとは何か?
Answer:
運動閾値(MT)とは経頭蓋磁気刺激法で一次運動野を刺激した際に標的筋から得られる筋電図波形である運動誘発電位(MEP)が誘発される強度のことです。経頭蓋磁気刺激法では「どのくらいの強度で刺激するのか」によって得られるMEPの出現頻度や大きさが変化します。
例えば、50%の強度でMEPが誘発される被験者がいるとします。その後、何らかの影響で大脳皮質が興奮状態(すなわち運動閾値が低い状態)に鳴った場合、同じ50%でもMEPは誘発されやすさなど(頻度や振幅)は変化します。逆に大脳皮質が抑制状態(すなわち運動閾値が高い)であれば刺激強度が前者と同じであってもMEPは誘発されないかもしれません。
そして、安静時と収縮時で分けている理由は、筋収縮の状態によってMEPの結果が異なってしまうからです。
最後に、RCsというのは様々な刺激強度で大脳皮質に刺激を行い、刺激強度によってMEPの大きさがどのように影響を受けるかというものを調べるものであり、こちらもCorticospinal Excitabilityを評価する一つの指標として用いられています。
これらの指標の結果が図2の結果になります。
図2 Corticospinal Excitabiityの結果
損傷半球の運動閾値は安静時・収縮時ともに高い結果であり、RCsは逆に低い結果となっております。
さらにパフォーマンスとの関連を示したのが図3になります。
急性期ではARATとの相関があることを示しております。急性期ではパフォーマンスと皮質脊髄路の興奮性に相関関係があり、3ヶ月後・6ヶ月後ではより弱い相関にとどまったという点から急性期では皮質脊髄路の興奮性が重要であると考察しています。
ということで今日はここまで!
今回は少し気合が入ってしまい、自分も若干疲弊してしまいました(笑)
細かく説明しようとすると一日かけても足りない気がしています。次回はもう少し、サクッと行きたいと思います。
次回はIntracortical Excitabilityについてです。
よろしくおねがいします。
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サクッと紹介!運動麻痺回復のステージ理論:①概要編
こんにちは。
今回のテーマは運動麻痺回復のステージ理論です。
こちらはOB Swayneらが提唱した理論であり、日本でもだいぶ浸透したのではないかと思います。この理論には3つのステージがあることはご存知の通りかと思います。
私は最初この理論を読んだときに「1st stageではCorticospinal Excitabilityが大事???残存する皮質脊髄路????」な状態でした。(自分が完全に勉強不足だっただけですが)
この理論を理解するためには、経頭蓋磁気刺激法における評価方法を知らないと理解することは至難かと思います。各ステージにおいて皮質がどのように変化しているのか?これをどう調べたのかは理解する必要があるかと思います。
そこで今回はステージ理論についても触れていきたいと思います。
(気まぐれ更新なので途中で別の話題に切り替わることもありますが)
初学者の方もいるかと存じますのでまずはステージ理論についてサクッと解説して今日は終わりたいと思います。
運動麻痺回復のステージは3つあります。
これが下図になります。
図 運動麻痺回復のステージ理論 (原寛美, 2013より一部改変)
-
1st Stage:発症から3ヶ月
-
2nd Stage:3ヶ月〜6ヶ月
-
3rd Stage:6ヶ月以降
そして、それぞれの時期で関わる回復メカニズムは異なります。
1st StageではCorticospinal Excitability(残存する皮質脊髄路の関与)
2nd StageではIntracortical Excitability(皮質内興奮性)
3rd StageではTraining-Induced Synaptic Strengthening(シナプス伝達の効率化)
なので臨床では各時期に上記の回復メカニズムを考慮し、様々な方法で回復を促進する必要があると考えられます。
ということで次回から、各ステージにおいてどうやってこれらを調べたのか?も含めて解説していきたいと思いますので今後ともよろしくおねがいします。
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セラピストが知るべき経頭蓋磁気刺激の知識!:反復4連発磁気刺法(QPS)
こんにちは。
GWも明けて気持ちが戻りきらない人も多いのではないでしょうか?
私もまったく気持ちが戻りません(笑)
シフトで動いている人はGWなんか関係ないって方も結構多いのでしょうか?
GW明け一発目は反復経頭蓋磁気刺激法の紹介です。
今回は、4 連発磁気刺激法(Quadripulse Stimulation:QPS)について。
昨今、反復経頭蓋磁気刺激法では様々な刺激方法が開発され、それぞれに特徴的な効果やメカニズムが考えられており、今回ご紹介するQPSもその一つです。
QPSは従来の磁気刺激の4連発を5秒ごとに与える刺激方法。QPSの刺激1.5〜10msの場合の間隔では促通状態となり、30〜100msでは抑制状態となります。
QPSは従来のrTMSよりも持続時間が長く、より強力な効果を得ることができます。
このように脳の機能を促通・抑制することができる反復経頭蓋磁気刺激法はまだまだたくさんあり、今回はその一部をご紹介しました。今後はこういった刺激方法を理解して現象を検討する論文がより増えることでしょう。
ということで今回はここまで。
また、次回もよろしくお願い致します。
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予測的姿勢制御と補足運動野:④(追記:補足説明)
こんにちは。
T-memoです。
前回は上肢を急速に挙上する予測的姿勢制御(Anticipatory Postural Adjustmnet:APA)の課題の前に経頭蓋直流電流刺激を補足運動野へ適応し、促通・抑制することでAPAが変化することをお伝えしました。また、上記の結果から補足運動野はAPAにおける重要な役割を担っていることをお伝えしました。(過去の記事を一番下に貼り付けてありますのでよければどうぞ)
ここでちょっと疑問に思うわけです。
この結果は、上肢を急速に挙上する課題に特異的な結果なのでは?
…と。
ということで今日は歩行開始時におけるAPAと補足運動野(SMA)との関係について、論じているRichard Aらの論文を紹介します。
結論から言いますと、補足運動野はAPAのタイミングや振幅に影響を及ぼしている可能性があるということです。
Richard Aらは健常者を対象に、補足運動野と小脳に抑制をかけた時APAはどう変化するのかということを検証しています。ちなみにここでいう「抑制」というのは反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS)によるcontinuous theta burst transcranial stimulation(cTBS)という刺激方法で行っています。(cTBSについては一番下に記事を追記しております、確認したい方は御覧ください)
このcTBSを行う前後でステップ動作を行い、APAの変化を観察しました。
結果は…
補足運動野へのcTBSは、APAにおける筋活動のタイミングや振幅(強さ)に影響を及ぼしたと報告しています(Richard A, 2017)
また、彼らは小脳にもcTBSを行っており、こちらの結果は肢内・肢節間協調性に影響を及ぼしたと報告しています。
歩行の開始には補足運動野や橋、小脳、視床、皮質経路などが関与するという点を踏まえると、納得がいく結果かと思います。
このように補足運動野を抑制状態にすることで歩行の開始におけるAPAにも影響が確認されており、補足運動野への抑制は上肢挙上課題以外でも確認されておりました。
ということで今日はここまで。
次回は、どの論文を紹介しようか迷っているのですが、上肢の予測的姿勢制御とか興味ある方いらっしゃるでしょうかね?この前友人に言われたのでちょっと紹介していこうか迷っています(笑)いずれにせよ、引き続き予測的姿勢制御の論文を紹介してきたいと思いますのでよろしくおねがいします。
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cTBSについて
セラピストが知るべき経頭蓋磁気刺激の知識!:シーターバースト刺激
こんばんは。
今日はセラピストが知るべき経頭蓋磁気刺激の知識シリーズでTheta Burst Stimulation:TBSについての紹介です。
少し前に予測的姿勢制御の論文を紹介していましたが、次に紹介する論文はデバイスの知識を紹介しておくと理解が早いのでサクッと解説します。
皆さん反復経頭蓋磁気刺激法はご存知ですか?
これは大脳を興奮状態にしたり抑制状態にしたりと神経の状態を調節することができる磁気刺激装置になります。
中枢神経のリハビリテーションに関わる方には是非とも知っていただきたい知識です。
今日は前回からの続きでTBSについて紹介したいと思います。
(前回の記事は一番下に貼り付けてあります)
図 野嶌, 2013 より一部改定
3 連発の刺激を 50 Hz の周期で200 ms 間隔で繰り返し、シータ周波数(すなわち5Hz)の刺激を脳に与えます。intermittent TBS(iTBS) は間欠的な刺激様式で皮質を興奮状態にします。 continuous TBS(cTBS)は機能的には抑制状態します。筋収縮時運動閾値)の 80%程度で刺激するので痛みも少ないのが特徴です。
このような刺激を脳の様々なところで刺激することにより特定の部位を抑制したり促通したりして反応の変化をみたりするわけですね。
ということで今日はここまで。
次回はrTMSの4連発刺激について紹介したいと思います。
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