田舎の理学療法士

田舎の急性期大学病院勤務PT&大学院生PTのメモ用ブログ(2人で運営してます)

第2弾「運動処方と自覚的疲労感について」

どうも。

田舎のPT、イナピーです。

今日は前回のお話の続きである、修正borg scaleを運動処方として使うのってアリなの?といった内容のお話です。

よかったら前回の記事も見ていただけると話の流れが分かるかと思います。

 

 

t-memo.hatenadiary.jp

 

 

普段から患者や利用者に運動指導を行なっている立場の人にとっては、borg scaleを使って運動強度を調整する作業はとても簡便で、もはや当たり前な作業となっているかと思います。

ですが、当たり前のようにルーティーンで使用しているものを疑いの目で見る事、その真実を解明しようとする事って中々重い腰が上がらなくて、でもとても大切な作業でもあるかと思います。

新しい知見は、常識を否定することから生まれる事もありますし。

 

では早速文献の紹介をしていきます。

今回は、βブロッカーを使用している冠動脈バイパス術(CABG)後の外来患者を対象とし、RPEをベースとした運動介入は、効果的かつ安全に実施できるかどうかを検証しています。

介入頻度は週3回、期間は5週間となっています。

 

P:71名の、βブロッカーを処方されているCABG術後症例を対象に、

I:修正borg scale 4-5を目安に運動強度を調整し、自転車エルゴメーターにて30分間運動した群(修正borg)と

C:AT levelのHRを目安に運動強度を調整し、自転車エルゴメーターにて30分間運動した群(AT HR)でのそれぞれの運動負荷は

O:AT levelでは、修正borg:47%HRR vs AT HR:40%HRR

  修正borg:53%maximum workload vs AT HR:52%maximum workload

   RC levelでは、修正borg:73%HRR vs AT HR:73%HRR

  修正borg:79%maximum workload vs AT HR:78%maximum workload

https://www.researchgate.net/publication/50936133_Training_prescription_in_patients_on_beta-blockers_Percentage_peak_exercise_methods_or_self-regulation

 

 

ここで利用されている修正borg scale4-5の負荷は、6-20で表されるborg scaleでいう”11-13”、”楽である〜やや辛い”に当たる運動負荷とされています。

いわゆる、AT levelの負荷を狙った運動処方になります。

 

結果は、修正borg群において理想的な運動負荷の範囲(AT point〜RC pointの間)に収まる症例が9割、残りの1割は予想よりも低負荷あるいは過負荷となりました。

RPE群は心拍数や負荷量などのフィードバックを与えていないのですが、自覚的な疲労感だけではやはり運動処方の精度が落ちてしまうようです。

 

さらに驚きなのは、今回の結果から見ると、%HRpeakでの処方よりも%HRRや%work loadの方が精度が高かったようです。

%HRpeakや%VO2peakを運動処方に用いる事は、実はアメリカスポーツ医学会のステートメントでも推奨されていません。

というのも、最大値を用いる運動処方には”安静時の代謝率”を無視した計算より導かれる数値を用いるので、実際の運動では誤差が生じてしまうとの見解が示されたからです。

単純に最大値の〇〇%の負荷でやってみよう、なんていう処方は、場合によっては再考すべき処方の仕方なのかもしれません。

 

心拍数での運動処方は簡便なのでよく用いられますが、βブロッカー使用例のように心拍応答の抑制された患者では運動負荷の変化に対する心拍変動も小さい事が今回の報告にもありました。

それは処方した負荷と実際の負荷との誤差が拡大する可能性を示唆しています。

一方、自覚的疲労感は何を対象として疲労感を聴取するかにもよりますが、血中の乳酸濃度と関連する評価指標とみれば、心拍応答の信頼性が低下している場合においても代謝レベルでの負荷を反映している自覚的疲労感は、おそらく本人が感じている以上の負荷がかかる可能性は低いかもしれません。

 

正直、自覚的疲労感だけでも意外と誤差を生じる割合が少ないのは驚きです。

ただ、RC pointを超えた負荷となる逸脱例も一定数認めており、RPE単独での運動指導はやはり運動を行う上でリスクが残ります。

βブロッカーを使用し変事作用の低下した(chronotropic reduced) CABG症例においては、RPEと%work loadを併用した処方も選択肢の一つとなるかもしれません。

 

今日はここまで。

次回は運動処方に用いられる酸素摂取量と心拍数の関係性について何回かに分けてご紹介しようと思います。

本日も最後まで読んで頂いてありがとうございました。

ではでは。