田舎の理学療法士

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脳卒中患者の体幹機能障害の原因②:先行随伴性姿勢制御(予測的姿勢制御 or Anticipatory Postural Adjustment)

こんばんは。

 

前回は体幹機能障害と筋力低下について記事を書きました。

今回は体幹機能障害とAnticipatory postural Adjustment:APA(先行随伴性姿勢制御 / 予測的姿勢制御)について紹介したいと思います。

 

皆さんAPAはご存知でしょうか?

 

APAは随意運動よりも先に姿勢制御筋が筋放電を開始する現象のことをいいます。

 下の図はAPAの筋活動の概略図です。

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図1 APAの筋活動(概略図) 主動作筋:三角筋 姿勢制御筋:大腿二頭筋

 

これは立位で上肢を挙上させたときの筋活動になります。三角筋(主動作筋)よりも大腿二頭筋(姿勢制御筋)が先に筋放電が起こっています。ちなみに、APAの筋電図解析では主動作筋の筋活動開始時点を基準点(0ms)として、それよりもどのくらい前に筋活動が開始されているかを測定することで確認できます。

 

このAPAがバランス能力にとても重要であり、バランス評価のBESTにもその内容が組み込まれています。今回の図は、大腿二頭筋とさせていただいてますが、体幹筋でもこのAPAの活動が起こることは確認されています。(Kanekar N, 2014)

 

 

では脳卒中患者さんの体幹筋はどう変化するんでしょうか?

 

 

Dickstein Rらは脳卒中患者のAPAについて報告しています。

 

 

この報告によると脳卒中患者のAPAでは体幹筋の活動レベルは低く、筋活動開始時間は遅延しており、左右の筋活動の同期性(左右対称性)も低下していると報告しています。また、これらの障害は機能的なパフォーマンス(Motor Assessent ScaleやBarthel Index)とも関連があると報告しており、脳卒中患者ではAPAの障害があることを報告しています。(Dickstein R, 2004)

 

脳卒中患者さんに限らず中枢神経障害の患者さんではAPAが低下することが多数報告されています。APAはフィードフォワード制御であり、中枢神経がその役割を担っていると考えられています。APAの改善を目的とするときに、前回紹介した筋力低下とは違った視点が必要になると考えられます。特にAPAは学習による影響を受けると考えられており、実際にトライアル&エラーを繰り返す必要があると考えられます。

 

APAの改善を促すアプローチの論文も紹介したいところですが今回はここまで。

 

また、お会いしましょう。

 

 

引用文献

  1. Kanekar N et al: The effect of aging on anticipatory postural control. Exp Brain Res. 232(4): 1127-36, 2014
  2. Dickstein R et al: Anticipatory postural adjustment in selected trunk muscles in poststroke hemiparetic patients. Arch phys Med Rehabil.85(2): 261-7.2004