新人PTが知っておきたい!脳卒中患者の体幹機能評価:まとめ
こんにちは。
前回まで、予測的姿勢制御の話をしておりまして、予定では今日もそのつもりだったのですが、4月に入りちょっとだけ脱線してみたいと思います。
4月に入り、皆さんの職場にも新人さんが入職されたことかと存じます。
脳卒中患者の評価というものは非常に多く存在しています。上肢の評価だけでもFMA・SIAS・ARAT・Br.stage・BBT…などなど。
このように様々な障害の焦点を当てた評価がたくさんあるわけですが、まとまって紹介されていると便利だなーというご指摘を頂いたので、以前に紹介した脳卒中における体幹機能評価のまとめを作ってみました。
今回ご紹介しているものは…
上記の6つになります。過去の記事を一番下に貼り付けておくのでよければ御覧ください。
ちなみに1〜5に関しては順序尺度の評価であり、特別な機器は必要ありません。
6は連続尺度の評価ですが、重心動揺計とそれをのせる台が必要になります。
この他にもMotor Assessment Scale:MASの座位バランスの項目やリーチ動作で行っているものもあります。
体幹機能が悪いのかな?とスクリーニングで思ったらこれらの評価を使ってしっかりClinical Questionを立ててくださいね^^
それではまたお願いします。
peakVO2は心不全患者の予後を反映する代替エンドポイントにならない?
どうも。
田舎のPT、イナピーです。
今日は、最高酸素摂取量(peakVO2)に関連して目を引いた文献を紹介します。
題名でギョッとしますけど、
peakVO2は心不全患者の予後の代替エンドポイントにはならないかもしれない
という内容です。
一般に、peakVO2は運動耐容能の直接的な評価としてgold standardと位置付けられるアウトカムです。
疫学研究においても、心疾患患者(虚血性心疾患、うっ血性心不全)のpeakVO2は
3.5ml/kg/min(=1METs)改善するごとに死亡率が12%改善する
ことが報告されています。
【引用文献】
しかし、peakVO2が死亡率や入院率、健康関連QOL(HRQOL)などのエンドポイントの代替指標となるかどうか、その妥当性については検討されてきませんでした。
そこで、この研究では左室機能の低下した心不全患者(HFrEF)を対象に、32件のRCTをメタ解析して明らかにしようとした報告になります。
結論からいうと、
代替エンドポイントとしてのpeakVO2(5ml/kg/minの改善)は、死亡率や入院率においては非常にpoorな相関を示しており、健康関連QOL(HRQOL)において中等度の相関を認めました。
ちなみに、peakVO2における5ml/kg/minの変化って、結構大きな変化です。
慢性心不全患者に対して大規模な多施設ランダム化比較試験(RCT)を実施したHF-ACTIONでは、死亡率を減少したとされる閾値は、
peakVO2:6%の改善(〜1ml/kg/min)でした。
それだけ運動耐容能が改善しないと患者さんのQOLも改善しないのかと、少しめまいしそうです。
しかし、この報告の目的は妥当性を検討する名目でしたが、相関しか調査しておらず、どのような誤差が生じたか、までは調べられていません。
ですので、この結果をそのまま解釈するには正確ではないかもしれません。
この文献を読むまでは、あまり代替エンドポイントについての概念は自分の頭の中にはありませんでした。
これからは臨床や研究で用いるアウトカムの重要性について、エンドポイントと絡めて意味付けしていく必要性を考えさせられる良い機会となりました。
今日はここまで。
本日も読んで頂きありがとうございました。
ではでは。
予測的姿勢制御と補足運動野:③
こんにちはT-memoです。
前回は補足運動野に抑制をかけるとAPAに変化が起こることをお伝えしました。今回は、その逆…すなわち補足運動野を促通すると抑制をかけたときとは反対の結果が得られるのか?あるいは変わりがないのか?(前回記事はこちら)
ということでSMAに促通をかけてAPAの変化をみた論文を紹介したいと思います。
こちらは2018年に掲載されたT Nomuraらの研究です。
今回も頭蓋直流電流陽極刺激を使った研究です。
ちなみに経頭蓋直流電流刺激(Transcranial Direct Current Stimulation:tDCS)についてDCSをサクッと説明しますと、頭に電極を貼り付けて微弱な電流を流すことで大脳皮質を促通したり、抑制したりすることができる装置になります。陰極刺激は大脳皮質は抑制し、陽極刺激は促通状態にすることを可能にします。
彼らは高齢者を対象に補足運動野(SMA)へ経頭蓋直流電流陽極刺激を行い、前・直後・15分後に上肢を挙上する課題を行い、APAを測定しました。この研究のアウトカムは筋電図から得たAPA時間三角筋・大腿二頭筋の筋活動開始の差)と変動係数、上肢の平均・最大加速度、重心動揺となっています。
結果は…陽極のtDCS後のAPA時間は拡張し(図参照)、変動係数は減少、COPの軌跡長・COP前後方向の平均速度が減少した結果となりました。
これらの結果から補足運動野はAPAに関与し、tDCSの有効性について述べています(T Nomura, 2018)。
陰極のtDCSとは反対の結果となりましたね。
非常に面白い結果であったと思います。
次回は上肢挙上課題以外の課題でSMAの関与が検討されているかについてお伝えしたいと思います。
Reference
CPXから考える運動処方:①Light to Moderate-intensity Exercise
どうも。
田舎のPT、イナピーです。
今日は、心肺運動負荷試験からわかる、運動処方における強度ごとの生理学的特徴
を、以下のドメインごとに4回に分けて紹介します。
「light-moderate(軽度〜中等度)」
「moderate-high」
「high-severe」
「severe-extreme」
本日の主役は、「light - moderate」 の強度についてです。
心疾患患者に対する有酸素運動は、従来より長時間実施できるよう定常負荷の
modalityが用いられてきました。
ここでは、定常負荷運動に対するエネルギー代謝やガス交換の反応は運動強度によっ
て異なる、という特徴に焦点を当てて話を進めます。
・light-moderate(軽度〜中等度) :
1st VT(無気的代謝;AT)未満の負荷で、VO2の定常が得られる
すべての負荷を含む
この強度での定常運動では、血中のpHはほとんど傾かず、血中の乳酸は安静時の値か
らほとんど上昇しません(およそ1-2mmol/L)。
このドメインでは、酸素摂取量(VO2)と換気の状態は運動を開始してから比較的早
期に定常状態が得られます(これを分かりやすく説明してくれているのが1段階負荷試験)。
定常状態が得られるということは、
有気的代謝以下のレベルの運動である
と言い換えることも出来ます。
高齢者や長期の不活動、慢性疾患を持っている方では、この反応が遅延すると言われ
ています。
反対に、普段から運動習慣があって鍛練してる人ではこの定常状態は3分以内に得ら
れます。
この早期に得られる生理学的な定常状態は、エネルギー回路に対する非酸化的代謝の
寄与をエネルギー回路のみに制限し、エネルギー枯渇を防いでくれたり(例えば、ホスフ
ホクレアチン(CrP)、グリコーゲン)、活動筋の疲労関連代謝(無機リン酸塩)の蓄積を制限
する効果を示しています。
上記の理由から、このドメインにおける運動時の生理的応答が定常状態にある場合、
理論的にはエネルギー枯渇がほとんどの場合生じないので、軽度の疲労でおよそ
30-40分以上は運動が継続できると言われています。
今日はここまで。
次回はmoderate-high intensity exerciseのお話になります。
ではでは。
【参考文献】
最高酸素摂取量(peak VO2)の臨床的意義と運動処方における有用性
どうも。
田舎のPT、イナピーです。
今日は、CPXで得られる数値の代表格とも言える、最高酸素摂取量(peak VO2)についてのお話です。
数値の意味づけや、運動処方における有用性を紹介していきます。
これは、運動耐容能を示す評価であり、かつ予後と関連する指標でもあります。
アメリカ・カナダ・フランスで実施されたHF-ACTIONという過去最大規模の多施設共同
のランダム化比較試験では、収縮機能障害を有する心不全患者(HFrEF)における
peak VO2の改善率が、心臓リハビリのend pointである死亡率や再入院率等とどれだけ
関連するかを調査した研究があります。
結論からいうと、
最適な薬物療法やデバイス療法を受けた左室機能の低下した慢性心不全において、3ヶ月にわたるpeak VO2のわずかな増加が、あらゆる原因の死亡率および入院率の低下と関連していました。
Swankらによると、左室駆出率(LVEF)<35%の慢性心不全患者における心臓リハビリの介入から3ヶ月後のpeak VO2が6%改善すると、
・全死亡率や全入院率のリスクが5%低減
・心血管由来の死亡率や再入院率のリスクが4%低減
・心血管死亡率や心不全入院のリスクが8%低減
することが分かりました。
また、予測因子調整後における全死亡率のリスクは7%低減することが示されています。
こういったアウトカムの変化率を参考に出来ると、患者さんに提供できる情報やモチベーション引き出すための指導内容もバリエーションが広がりますよね。
次に、運動処方に用いることについてのお話です。
結論からいうと、
peakVO2単独(例えば、%peakVO2のような相対強度)では、運動処方への使用は推奨されていません。
そもそも、peakVO2とは
大筋群を含む動的運動時における予測最大努力の運動試験中に到達する、平均2-30秒以上の酸素摂取量の値。
と定義されています。
一般的には、最大酸素摂取量(maxVO2)とは異なる値であることが言われています。
そして、最大/亜最大努力への到達(信頼性の高いpeakVO2値)を導き出すための、いくつかのクライテリアで仮定されています。
・仕事率が上昇しているのに酸素脈(VO2 / HR)が上昇しない
・最大呼気ガス比(VCO2/VO2) ≧ 1.10
・運動後、血中乳酸濃度≧8mmol/L
・RPE≧18 / 8(borg scale/修正ボルグ)
・患者が疲れ切っている
上記のうち、
漸増負荷運動時のVO2/WRのプラトーこそが
最大負荷決定のゴールドスタンダードとされている一方で、呼気ガス比の最大値のカットオフや運動後lac濃
度の提案は個人間でバラツキが大きく、使用上の制限があるとも言われています。
単純に考えて、VO2がそれ以上上昇しなくなれば、酸素を利用する上での機能的な上限に達したことが分かりますもんね。
特に、運動処方においてはこのpeak VO2の相対強度である%peakVO2を単独で使用
する事は適切ではないとの指摘もあります。
これは、"gross"と"net"という概念から考察されている理論です。
要は、正確に運動処方を行いたいなら、運動時の値だけじゃなくて安静時の値も考慮した方が良いですよって事みたいです。
かの有名なkarvonen法も、方程式の最後に安静時のVO2:3.5ml/min/kgを加算していますよね。
今日はここまで。
最後までご覧頂き、ありがとうございました。
ではでは。
予測的姿勢制御と補足運動野:②
こんにちは。
T-memoです。
今日は引き続き予測的姿勢制御と補足運動野に関する文献について紹介したいと思います。Takakusakiの作業仮説では動物実験を中心に紹介されていましたが、僕が紹介する記事はヒトを対象とした基礎実験になります。Takakusakiらの作業仮説に関しては過去の記事を御覧ください。
ちなみに今回は日本語の論文を紹介します。こちらは皆さん読みやすいと思いますので是非、Referenceから一読してみてください。前回はYoshida Sらの脳波を使った研究からAPAと補足運動野の関係について考えてみました。今回もAPAと補足運動野について触れている吉田らの文献を紹介していきます。
今回は経頭蓋直流電流陰極刺激を使った研究です。
ちなみに経頭蓋直流電流刺激(Transcranial Direct Current Stimulation:tDCS)についてはみなさんご存知ですか?tDCSをサクッと説明しますと、頭に電極を貼り付けて微弱な電流を流すことで大脳皮質を促通したり、抑制したりすることができる装置になります。陰極刺激は大脳皮質は抑制し、陽極刺激は促通状態にすることを可能にします。
吉田ら, 2013は健常者を対象に補足運動野(SMA)へ経頭蓋直流電流陰極刺激を行い、前・直後・15分後に上肢を挙上する課題を行い、APAを測定しました。この研究のアウトカムは筋電図から得たAPA時間である⊿EMG onset(三角筋・大腿二頭筋の筋活動開始の差)と上肢の加速度・重心動揺となっています。
結果は概要図を上記に示しました。⊿EMG onsetがtDCS直後・15分後がtDCSを行う前に比べて優位に短縮したと報告されています。また、他のアウトカムに関しては有意差がなかったとのことです。考察ではSMAー視床下核ー大脳基底核ループから考察を行い、先行研究と同様の結果であることを述べています。
高草木先生の作業仮説で述べられていた動物実験の結果と同じ結果であったという点では非常に重要な研究かと思います。動物実験とヒトではぜんぜん違う結果もありえますからね。
ということで今日はここまで!
次回は陽極刺激の結果をお伝えします!
逆の現象が起こると思いますか?それとも効果はないと考えますか?
それではまた来週!
Reference
予測的姿勢制御と補足運動野:①
こんにちは。
T-memoです。
前回までは高草木先生の作業仮説ではあまり触れられていない、予測的姿勢制御(Anticipatory Postural Adjustment:APA)と一次運動野との関連について文献を紹介しました。
今回からはAPAと補足運動野について触れている文献を紹介していきます。
何から紹介しようかと思うところですが、まずは脳波を使ったAPAの文献から紹介していきます。まず、APAと補足運動野の関連がなぜ指摘されているのかについては過去の記事をご参照ください
Yoshida S ら2008年に脳波の運動関連電位を使用して立位と座位で上肢を挙上する課題(すなわちAPA)を行い、大脳の活動状態を調べています。今回の研究で使用した脳波は10-20法の下記の部位です。この部位から得られた運動関連電位を調べたことになります。
ちなみに運動関連電位(Motor Related Potentials:MRPs)は運動の準備状態の指標になります。MRPsはさらにReadiness Potential(RP)とMotor Potential(MP)の2つに分類され、前者は両側感覚野と両側補足運動野、後者は対側感覚野と両側運動野由来であると考えられています。
結果ですが、RPは最もCzで高く、立位では座位よりもRPの振幅が大きい。また、MPでは立位と座位で有意差を認めなかったと報告しています(Yoshida S et al,2008)。
両側補足運動野の活動を反映すると考えられているRPの活動がCzより高いことから、この結果は補足運動野が主たる生成元であり、きたるべき運動に備えて補足運動野が準備をしている(Yoshida S et al,2008) と彼らは考えているようです。
これは高草木先生の作業仮説と同じ傾向であり、APAには補足運動野が重要であることを示しているのかもしれませんね。高草木先生のはサルの実験から考察しているので、ヒトでこのような報告がなされた点で非常に重要な知見かと思います。
今日はここまで!
次回も予測的姿勢制御と補足運動野の文献について紹介します!
よろしくおねがいします
Reference